賢い双子

賢い双子

この物語を覚えている老人は、たぶんこの世にはもうあまり残っていないほど、むかしむかしのお話です。ある日、ベルドゥイ氏族の村に双子の兄弟が生まれました。双子は、ウドガとチュバクと名付けられました。双子はその氏族に幸運と幸福をもたらすと言われています。ベルドゥイ氏族もその通りになりました。ウドガとチュバクは、ふつうの子供たちと同じように育てられましたが、経験豊かな老人たちにも負けないぐらい頭がいい子供たちでした。たった五歳で狩りに出かけ、獲物をしとめることができました。双子は、みんなに愛されよく面倒をみてもらいました。そして、双子は氏族に幸運をもたらしました。

ある年、森の動物も川に登る魚も少なくなり、ベルドゥイ氏族の生活はつらくなりました。老人たちが集まり話し合って、村の引っ越しをすることにしました。彼達は、動物や魚が少なくなったのは、悪霊のせいだと言いました。ウドガは長老の話を聞いて、「村の引っ越しをしてはいけないよ。ここは食べ物に困らないいいところだよ。」と言いました。

そして、ウドガは、森に向かって弓の矢を放ちました。どのくらいの間がたったか誰もわかりませんが、突然、矢が森の方から飛んでくるのが見えました。矢が戻ってきたのです。そして、矢の後には、野生のカモやガチョウやウズラが続いて飛んで来ました。矢は自分でウドガの矢筒の中に入りましたが、鳥たちはウドガの足元に落ちました。みんな左目にケガをしていました。老人たちはお互いに目を見合わせて、こんなことが起こるなら、肉に困ることはないだろうと判断しました。

今度は、チュバクが片手で網を川の中へ投げ入れました。そして、網は川の底に沈んでいきました。

「水の悪霊に網を取られてしまったんだ…。」と老人たちはささやきました。

そのとき、突然川の水面が荒れはじめたかと思うと、チュバクが水の中に片手を入れて、網を取り出したのです。老人たちは、チュバクが網の結び目の数と同じくらいたくさんの魚を釣り上げたのを見て、あっと叫びました。それで、村人たちはこんなことが起こるなら、魚に困ることはないだろうと判断しました。

そして、「去年、川のどちら側を登ってきた魚にイクラが多かったか、覚えていますか。」とチュバクは女達に聞きました。

「左側だったわ」と、女たちは答えました。

「そうですか。つまり今年も川の左側を魚は登ってきていたけど、あなた達は右側を登ってきた魚を取っていたんですね。だから、もう魚が登って来なくなったのですよ。」と、チュバクは言いました。

「鳥も動物も魚の後を追って動くのです。だから、川の向こう側で狩りをするようにすれば、うまくいくはずです。」と、ウドガは言いました。

こうして、狩りがうまく行くようになり、村に幸せが訪れました。そして、村人たちは何ごとにつけ双子に相談するようになり、双子の知恵におどろかされました。

しかし、ある日また困ったことが起こりました。満州からおそろしい隊長が、たくさんの大砲をもった兵士達を連れて、遠い国から村にやって来て、貢ぎ物を出せと言いました。なんと、村人はみんな、狐とカワウソとクロテンを一匹ずつ出せと言うのです。村人たちは、今まで誰にも貢ぎ物なんて収めたことがありません。村人はみんな悲しみにくれてしまいました。鼻の大きい満州の隊長はさらに迫ってきます。体調の兵士と大砲の数は、村人の数の二倍です。老人たちは双子のところへ相談に行くことにしました。双子は「貢ぎ物なんて納めることはありません。ぼくたちの氏族は満州人ではないのですから。この大地も水もぼくたちのものです。ぼくたち二人が隊長のところへ話し合いに行きましょう。」と、老人たちに言いました。

「行かないでおくれ。隊長は、いじわるで恐ろしい人なのよ。お前たちは殺されて、この幸せな私たちの村もめちゃくちゃにされてしまうわ。」と、村の女達は大声で泣き出しました。

しかし、双子は隊長のところへ行くことを固く心に決めました。向こうに、隊長がサンパンという船に乗っているのが見えます。隊長の船は、絹の帆がゆれています。隊長のまわりには見張りが立っていて、首切り台のそばで剣を研いでいる兵士もいます。隊長は右手を枕の上にのせています。その手の爪は長く、床に届くぼどです。そして、その爪には銀のカバーがかけられていました。左手は、五人の女奴隷に爪の手入れをさせています。隊長の足元には、太った書記係が本を持って座っています。隊長は双子を見ると、

「ナナイ人の双子よ、何のために俺のところにやって来たのだ。」と、双子に聞きました。

隊長が双子に気がついたことに双子は少しおどろいて、黙っていました。すると、太った書記係が「隊長殿、あの子らは、村の長老たちがもうすぐ貢ぎ物を持ってくることを急いで知らせに来たのです。」と、言いました。

隊長は偉そうに鼻を高くして、ナナイ人の長老たちに会う用意をはじめました。でも、待てども待てども長老たちはやって来ません。隊長は首が痛くなってきました。すると、「隊長殿、長老たちは貢ぎ物など運んで来はしません!わが氏族は誰にも貢ぎ物を納めたことなど一度もありません。この世が明けてからずっとわが氏族は自分たちの川で魚を取り、自分たちの森で狩りをし、自分たちの空気を吸い、自分たちの星を眺めてきました。長老たちは来ません。子供のぼくたちがあなたのところに来ることにしたのです。しかし、隊長殿、貢ぎ物ではなく、贈り物は持ってきました。」と、チュバクは隊長に言いました。

ウドガはタバコ入れを取り出して、ひとつかみ土を入れました。

「あなたが自分の土地だけでは少なすぎると思っているなら、わが村の土をひとつかみ、贈り物としてあなたにあげましょう。」と、ウドガは言いました。

チュバクはチュマシカという白樺の木の皮で作った皿からフクロウの目玉を取り出して、

「このフクロウの目玉を贈り物としてあなたにあげましょう。この村の村人がどんなに勇敢か、これを使えば夜でも見ることができますから。」と、言いました。

ウドガはワシの尾の羽を取り出して、

「この羽も贈り物としてあなたにあげましょう。ワシのように長生きしてください。みんながワシをおそれるように、あなたを同じように恐れるでしょう。でも、わが村の人々はあなたを恐れたりしないことは忘れないでください。」と言いました。

チュバクは灰をひとつかみとって、

「あなたの敵はみんな灰になるでしょう。でも、この灰が降り積もり、人々に対するあなたのいじわるな心も覆い隠してしまうでしょう。」と言いました。

隊長は、双子の賢さと勇ましさにおどろきました。そして、子供がこんなに賢くて勇ましいなら、村の男たちはさぞ賢くて勇ましいだろうと、考えました。でも、隊長はおどろいた素振りはちっとも見せませんでした。「明日、ベルドゥイ村へ兵士たちを行かせて、村人の家を焼きはらい、村人を皆殺しにさせると、長老たちに伝えろ。」と、隊長は双子に大声で言いました。

すると、「今日思いついたなら、今日村へ行ったほうがいいですよ。きっと明日はもう行けなくなってしまいますから。」と、ウドガは隊長に言いました。

しかし、隊長は双子の言うことを聞かず、次の日兵士たちを村へ向かわせました。すると兵士たちが出発したとたん、川岸が見えなくなるほどの大雨が降りだして、兵士たちが泥にうずまってしまうほど道がぬかるんでしまいました。銃の火薬も濡れてしまって、兵士たちは戻るしかありませんでした。

隊長は怒って「お前たちは、俺の兵士たちが失敗すると、どうしてわかったのだ。」と、双子に聞きました。

「きのう、太陽が黒い雲の向こうに沈んでいったのです。そういうときは必ず大雨になると言われています。」と、ウドガは答えました。

雨が上がって、満天の星空になりました。隊長は「明日は俺が自分でベルドゥイ村へ行って、村人の家を焼きはらい、村人を皆殺しにしてやる。」と、隊長は言いました。

「今日思いついたことは今日中にしたほうがいいですよ。きっと明日はもうできなくなってしまいますから。」と、チュバクは答えました。

しかし、隊長は夜が明けるのを待って、朝になってからすべての船の帆をあげるよう命令して、大軍を出発させました。突然、強い風が吹き始め、急に辺りが暗くなり、黒い雲が空をおおい、隊長も生まれて初めて見るようなひどい嵐になりました。大波が空高く上がり、風が船の帆を引き裂いて、船のかじを折ってしまいました。

隊長は怒って「お前たちは、俺が失敗すると、どうしてわかったのだ。」と、双子に聞きました。

「昨日の夜、星がひどく揺れていたのです。そういうときは必ず嵐になると言われています。」と、チュバクは答えました。

隊長はすっかり怒ってしまって、マントを頭からかぶり隠れてしまいました。それから、怒って長い爪は全部折り、奴隷たちを追い払って、書記係を棒でなぐりました。双子の兄弟は彼のそばへ行って「隊長、ぼくらは自分たちが住む土地をよく知っているのです。魚をとったり、狩りをしたりしますが、ぼくらは大地の恵みを無駄にしたりしません。隊長、よく知りもしない土地から恵みを与えてもらえるわけがないではないですか。」と言いました。

隊長は、こんな子供が自分より賢いことにおどろきました。そして、この氏族にはとても勝てないと思って、満州の方へ帰っていきました。この双子の物語を覚えている老人は、たぶんこの世にはもうあまり残っていないほど、むかしむかしのお話です。