白鳥なる少女

白鳥なる少女

むかしむかし、白鳥たちは声を出しませんでした。今は、「クゥイクゥイ、クゥイクゥイ」と鳴きますよね。だから、白鳥はクゥイクゥイクという名前でよばれるようになったのです。

むかしむかし、ある少女が海辺の村に住んでいました。少女は海辺で遊ぶことが好きでした。朝から晩まで、砂の上に細い枝で絵をかいたり、砂で小さな家を作ったりして遊んでいました。

そして、少女は空の上を白い雲のように飛んでいく鳥たちを眺めることも好きでした。砂の上に横になって、渡り鳥の群れが遠くに姿を消すまで眺めていました。

少女はお母さんにもお父さんにも愛されて幸せに暮らしていました。

ある日、お母さんが死んでしまいました。少女とお父さんは、長いこと悲しみました。でも、ある時、お父さんは娘のために継母を迎えようと、遠い村へ行くことにしました。

そうして、お父さんは美しい女の人を連れて帰ってきました。少女の継母になった女の人は、少女を頭のてっぺんから足の先までじろじろ見て、いかめしい顔をしましたが、何も言いませんでした。

日が上がるとすぐに、少女は海辺へ遊びに行きました。海辺の砂で小さな家を作りましたが、波に流されてしまいました。でも、潮が引いている間に、もう一度、新しい家を作りました。そうこうしているうちに、正午になろうとしていました。でも、遊びに夢中で少女は時間を忘れていました。急いでうちに帰ったのは、日が頭に照りつけるようになってからでした。

継母は、まだまだ寝ていました。だから、少女はまた海辺へ遊びに行きました。そして、うちに帰ってきたとき、継母は起きたばかりでしたが、もうおいしそうな魚の干物を食べていました。少女は継母のそばへ行きましたが、継母は見ないふりをしていました。継母はひとりで魚の干物をおなかいっぱい食べて、少女には魚のしっぽだけ投げてよこしました。少女は、継母がたべのこした魚のしっぽを食べると、もっとおなかがすいたような気がしました。でも、継母はあくびをして、背中を向けてまた寝てしまいました。

こうして、少女は不幸になりました。

お父さんは、食べ物をたくさんとって来てくれました。でも、獲物を持って帰って来ても、すぐまた長い狩りに出てしまいます。

継母は、おいしいものは自分ひとりで食べてしまいました。

ある日、父は継母にたずねました。「どうしたのだ?娘がひどくやせているじゃないか。病気じゃないのか?」

「いいえ、彼女は1日中遊んでばかりいるのです。仕事も手伝わないで。いくらごはんを食べさせても、やせっぽっちですよ。遊んでばかりいるんですから。」と、継母は答えました。

そして、秋がやって来ました。渡り鳥の群れは南へ飛んで行きました。お父さんが家で休んでいると、継母は納屋からおいしそうな干物を持って来て、切りはじめました。

いつものように、継母は干物を少女にひとくちもあげませんでした。少女は、干物をくれるように継母にたのみました。でも、継母は少女を見ないふりをしました。

「お母さん、お母さん、ひとくちだけでも干物をください。」と、少女は継母にたのみました。

「うるさい!」と、継母は答えました。

「ほんの少しでいいから。」

「うるさい!あっちに行きなさい!」

少女はとてもおなかがすいていたので、手を伸ばしたそのとき、継母は少女の指をナイフで突きさしました。

少女は家を出て、小山の上に登って、泣き出しました。指からは血が出ていました。

「クゥイクゥイ、クゥイクゥイ、クゥイクゥイ」と、少女はすすり泣きました。

その時、白鳥の群れが海辺の空を飛んで行きました。白鳥の群れは、少女の泣き声を聞いて少女のそばに降りてきました。白鳥たちは、少女の指の血を見てかわいそうになりました。そして、声を出さずに泣きました。泣いて泣いて泣きつづけていると、突然、声が出たのです。

「クゥイクゥイ、クゥイクゥイ、クゥイクゥイ」

お父さんは少女の声が聞こえて外に出ました。すると、大きな白鳥がいたので、うちに弓を取りに行って、走って戻ってきました。

それを見た白鳥たちが飛び立とうと羽ばたいたとたん、少女に羽が生えました。少女は、美しい白鳥になったのです。

白鳥の群れは空高く飛び上がりました。若い白鳥が群れの真ん中を飛んでいました。

「クゥイクゥイ、クゥイクゥイ、クゥイクゥイ」と、白鳥たちはみんな泣いていました。

でも、若い白鳥だけは声を出しませんでした。

「娘よ!帰って来ておくれ!幸せになれるはずだから!」と、お父さんは両手を頭の上に上げて叫びました。

でも、白鳥の鳴き声しか聞こえませんでした。

「クゥイクゥイ、クゥイクゥイ、クゥイクゥイ!」

お父さんは、長いこと立ちすくんでいました。白鳥たちはどんどん遠くへ飛んで行って、そして見えなくなってしまいました。

毎年、春になると、泣くように鳴きながら、白鳥の群れが村の上を飛んでいきます。

「クゥイクゥイ、クゥイクゥイ、クゥイクゥイ!」

でも、一羽の白鳥だけは声を出さずに、小山の上に立ちすくむ男の人の姿を見ています。

あれから、長い年月が過ぎました。男の人が立っていたところには、太くて堅い唐松が生えています。その唐松は、腕のような枝を真上に伸ばして、何か叫んでいるようです。

白鳥は、毎年、北へ南へ村の上の空を飛んで行きます。でも、必ず唐松のところで方向を変え、飛ぶ高さを低くして悲しそうに鳴くのです。

「クゥイクゥイ、クゥイクゥイ、クゥイクゥイ!」

終わり