最も強いもの

最も強いもの

ある冬の日のこと、ナナイ人の男の子たちが氷の上で遊んでいました。雪遊びをしたり、氷の上を滑ったりして、最後はけんかになってしまいました。ナメカという男の子がクルブという男の子をからかったりたたいたりして、偉そうに言いました。「ぼくが一番強いんだ!一番強いのはぼくなんだから、みんな、ぼくにおじぎをしろよ。」すると、そのとき、ナメカがすべってころんで、頭を氷にぶつけてしまいました。「やあい!ナメカ!氷に頭をたたかれたじゃないか。ほら、血が出ているよ。一番強いのはナメカじゃなくて、氷のほうさ。さあ、ナメカ、氷におじぎをしろよ。」と、クルブはナメカに言いました。すると、氷におじぎをしながら、ナメカは聞ききました。「氷さん!この世であなたより強いのは誰ですか?」

「太陽さ。太陽に暖められたら、ぼくは溶けてしまうんだから。」と、氷は答えました。

ナメカとクルブは太陽のところに行って、太陽におじぎをしました。

「太陽さん!この世であなたより強いのは誰ですか?ぼくはクルブより強いけど、ぼくより氷のほうが強いんです。でも、あなたは氷よりもっと強いでしょ?だって、あなたは氷を溶かして水にしてしまうのですから。この世で一番強いのは、あなたですか。」と、ナメカは太陽に聞きました。

「いや、ぼくより黒雲のほうが強いさ。黒雲が大地をおおってしまったら、ぼくの光は大地にとどかないんだから。だから、黒雲のほうが強いのさ。」と、太陽は答えました。ナメカとクルブは、黒雲のところに行くために、一番高い山に登らなければなりませんでした。山の上でふたりは、すっかり凍えてしまいました。おまけに、びしょびしょに濡れた着物には霜がついてしまいました。それでもふたりは黒雲のところに行っておじぎをしました。

「黒雲さん!この世であなたより強いのは誰ですか?ぼくはクルブより強いけど、ぼくより氷のほうが強くて、氷より氷を溶かすことができる太陽のほうが強いのです。でも、あなたは太陽よりもっと強いでしょ?あなたは太陽の光をさえぎることができるのですから。この世で一番強いのは、あなたですか。」と、ナメカは黒雲に聞きました。

黒雲はしばらく考えていました。そのとき、強い風がふいて、黒雲を吹きとばしてしまいました。そのあとすぐに辺りが明るくなって、虹が出ました。草木が元気になって、ふたりがいる山の上から大地がはるかに見わたせました。

ふたりは風におじぎをしました。

「風さん!この世であなたより強いのは誰ですか?ぼくはクルブより強いけど、ぼくより氷のほうが強くて、氷より氷を溶かすことができる太陽のほうが強くて、太陽より光をさえぎることができる黒雲のほうが強いのです。でも、あなたは黒雲よりもっと強いでしょ?あなたは黒雲を吹きとばすことができるのですから。この世で一番強いのは、あなたですか。」と、ナメカは風に聞きました。

風はしばらく考えていました。そのとき、クルブが風に聞きました。「あなたは黒雲を吹きとばすことができますが、山を吹きちらしたり動かしたりすることもできるのですか。」

風は頬をふくらませて、ふうっと力いっぱい山に向かって吹きつけましたが、動かすことはできませんでした。山はじっとしています。

だから、ふたりは山におじぎをしました。

「なるほど、そうか。山さん!この世で一番強いのは、あなたなのですね。」と、ナメカは言いました。

山はしばらく考えていました。「いや、木のほうがわしより強いさ。木はわしを風から守ってくれるけど、わしの中に根をはって、わしを崩してしまうこともできるのさ。」と、山は答えました。

それで、ふたりは木におじぎをしました。

「木さん!この世であなたより強いのは誰ですか?ぼくはクルブより強いけど、ぼくより氷のほうが強くて、氷より氷を溶かすことができる太陽のほうが強くて、太陽より光をさえぎることができる黒雲のほうが強くて、黒雲より黒雲を吹き飛ばすことができる風のほうが強くて、風より風が吹いても動かない山のほうが強くて、山より根を張って山を崩すことができる木のほうが強いのです。ということは、この世で一番強いのは、あなたですか。」と、ナメカが聞きました。

「ああ、そうなるな。ああ、この世で一番強いのは、おれだよ。」と、木は答えました。

「そうじゃないよ。」と、ナメカは大声で言いました。そして、おのを取って、木を切りたおしてしまいました。

すると、木も、山も、風も、黒雲も、太陽も、氷も、ナメカにおじぎをしました。その時から、この世で一番強いのは、人間だと言われるようになったのです。