アイオガ

アイオガ

ナナイ民族のサマル氏族の村にラーという名の人が住んでいました。ラーは家族がいて、子供もいました。ラーが一番愛したのは、アイオガという娘でした。ある日、よそから村に来た人が世界中どこをさがしてもラーの娘ほどの美女はいないと言いました。アイオガはうれしくなって、ぴかぴかに磨き上げられた銅の洗面器で自分の顔をよくよく眺めました。アイオガは、自分が本当に好きになって、自分の顔に見入ったまま目を離すこともできなくなるほどでした。

ラーの家族には、やらなければならない事がたくさんあって、みんな仕事で忙しくしていました。でも、アイオガは何もしないで、自分の姿に見とれてばかりいました。ある日、「アイオガ、川に行って水をくんできて。」と、お母さんがアイオガに言いました。

「川に落ちはしないかと怖いわ。」と、アイオガは答えました。

「それなら、茂みの枝につかまればいいよ。」

「でも、茂みの枝が折れはしないかと怖いわ。」

「それなら、丈夫な枝につかまればいいよ。」と、お母さんはアイオガに言いました。

「でも、手が傷だらけになりはしないかと怖いわ。」

「手袋をはめればいいじゃないか。」

「でも、手袋が破れないか心配だわ。」と、アイオガは銅の洗面器に写った自分の姿に見とれながら、お母さんに言いました。

すると「手袋が破けたら、縫えばいいじゃないか。」と、お父さんがアイオガに言いました。

「でも、針が折れないか心配だわ。」

「一番太い針を使えばいいじゃないか。」

「でも、指に刺しはしないかと怖いわ。」

「皮の指ぬきをはめればいいじゃないか。」

「でも、皮の指ぬきが破けはしないかと心配だわ。」と、アイオガはお父さんに言いながら、自分の姿に見とれて自分の顔に見入ったまま目を離すことができません。

その時、そばを通った隣の家の娘が、ラーの家に水をくんで来ると言いました。そして、本当に川に行って水をくんできてくれました。アイオガのお母さんは、その水でパン生地を作り、ウワミズザクラを入れたパンを焼きました。アイオガはそのパンのおいしそうなにおいに気づいて、

「パンを持ってきて。」と、お母さんに言いました。

「パンは熱いから、手をやけどしはしないかと心配だよ。」と、お母さんはアイオガに言いました。

「手袋をはめるから大丈夫よ。」

「でも、手袋が濡れはしないかと心配だよ。」と、お母さんはアイオガに言いました。

「日にあてればすぐに乾くから大丈夫よ。」

「でも、日にあてたら手袋が反り返りはしないかと心配だよ。」

「わたしが手袋を柔らかくするから大丈夫よ。」

「でも、アイオガが疲れて美しさが衰えはしないかと心配だよ。だから、うちに水をくんで来てくれたあの娘にパンをあげたほうがいいだろう。」

アイオガはひどく腹を立てて、小屋を出て川の方へ走って行ってしまいました。川岸に座って、水面に写った自分の姿を見ていると、隣の家の娘が来て、アイオガのそばに座りました。そして、ウワミズザクラの実のいい匂いがするパンをおいしそうに食べています。アイオガはもっとひどく腹を立てて、首を伸ばしてその娘の方を見ました。すると、その娘は「アイオガ、パンがほしいの?」と、アイオガに聞きました。

こんなに美しい私に食べ残したパンを食べさせるなんて、と、アイオガはもっともっとひどく腹を立てました。アイオガは憎しみで顔を青くして、首をもっと伸ばして、その娘を追い払うように手を振りました。すると、手が羽になってしまいました。

「私は何もほしくないわ。」と、アイオガはその娘に大声で言って、水面につくほど羽になった両手を振り回しました。すると、アイオガは野生のガンになってしまいました。アイオガは水面を泳ぎながら「私は一番美しいわ。私よ。世界中で一番美しいのはこのアイオガよ。」と、大声で言いました。

長い間、アイオガは川の水面を泳いでいました。それは話せなくなるほど長い時間でした。その鳥は、世界一の美女の名前を間違えないようにアイオガという名前だけは忘れませんでした。でも、それ以外の言葉は全部忘れてしまいました。その時からその鳥は、人を見ると「アイオガーガーガ!アイオーガーガーガ!」と自分の名前を大声で言うようになったのです。