ゲワゥヘトゥと族長の娘

ゲワゥヘトゥと族長の娘

ある大きな村に、ゲヴヘトゥという若者が住んでいました。ある日、朝早く起きて草を刈りに行ました。家を出て、日が昇る東の方を見ました。と、そのとき、突然、生まれてこれまで一度も見たことがないほどの大きな鳥が向こうの空からこちらに飛んでくるのが見ました。その鳥は、ゲヴヘトゥの頭の上を通りすぎて、美しい娘がいる族長の家の屋根の上にとまりました。みんな、その娘に見とれてしまうほど美しい娘です。鳥は、辺りを見回すと、煙の穴から家の中に入ってしまいました。

なんだってあの鳥は族長の家の中に入ったんだろうと、ゲヴヘトゥは考えました。すると、そのとき、急にあの鳥が煙の穴から出てきました。鳥は若い娘を鋭い爪でつかんでいました。鳥がゲヴヘトゥの頭の上を飛んで行くとき、娘の指に銀の指輪が光ったのが見えました。ゲヴヘトゥは不思議なことがあるものだと思いましたが、草刈りに行かなければならなかったので、そのまま草刈りに行きました。ゲヴヘトゥが草刈りをして村に帰ってくると、族長の一人娘がどこかへ消えてしまったと隣の人が言いました。族長は見張りの者に娘を探しに行くように言い、村の家々をくまなく訪ね歩くように頼みました。見張りの人たちは、ゲヴヘトゥの家にも来て、族長の娘を見なかったか聞きました。

「朝、生まれてこれまで一度も見たことがないほどの大きな鳥が鋭い爪で若い娘をさらって、東の方へ飛んでいくのを見たんだ。その娘の指には指輪が光っていたよ。あの娘は、族長の娘だったかもしれない。」と、ゲヴヘトゥは答えました。

そして、見張りの人はゲヴヘトゥを族長のところに連れて行って、朝見たことをもう一度族長に話させました。

「どうか、娘を見つけ出してくれ。俺の兵士たちを百人お前といっしょに行かせよう。たっぷり報酬もやるし、娘をお前に嫁にやると約束する」と、族長はゲヴヘトゥに言いました。

ゲヴヘトゥは、兵士たちといっしょに大きな鳥が飛んでいった方に向かいました。ゲヴヘトゥたちは、太陽が昇る東の方へ向かって遠く歩いていきました。だいぶ歩いて、みんな疲れてへとへとになってしったころ、突然、地面に大きい穴があいていて、そこから地下に道が続いているのが見えました。

ゲヴヘトゥは、兵士たちに木で箱を作るように命じて、その箱を縄でくくりました。そして、手に鐘を持ってその箱の中に入ると、その穴の中へ降ろすように命じました。

「族長の娘を見つけたら、すぐに鐘を三回ならす。いいか、三回鐘を鳴らしたら、この箱を引き上げるんだぞ。」

ゲヴヘトゥは、真っ暗な縦穴を降りて行きました。すると、突然、明かりが見えました。そして、その明かりはどんどん近づいてきました。すると、穴の底に着きました。そして、ゲヴヘトゥは地下をどんどん歩いて行きました。すると、大きな家がありました。ゲヴヘトゥは、その大きな家の中に入りました。中にいたのは、族長の娘でした。

「どうしてこんなところへやって来たの。」と、族長の娘はゲヴヘトゥにたずねました。

「ここはとても危ないわ。わたしの夫は悪霊です。わたしは悪い夫に連れて来られてしまったのです。」

族長の娘は、ゲヴヘトゥにごはんをごちそうしてから、寝床の下にかくれるように言いました。そして、家中を全部きれいにそうじしました。すると、そのとき、娘の夫が帰って来ました。夫はとてもせが高くて強そうで、しかめっ面をしていて、髪の毛は赤色でした。とってきた獲物を妻の足元に放り投げて、

「晩飯を作ってくれ。なんだか家の中がくさいぞ。変なにおいがするぞ。」と言いました。

「あなたが持ってきたシカの臭いだわ。すぐに、シカの肉を焼いてあげましょう。」

悪霊はおなかいっぱいシカの肉を食べて、頭の赤毛の毛づくろいをするように妻に言いました。犬にはノミがいるように、族長の娘の夫の赤い髪の毛の中にも虫がいました。族長の娘は夫の髪の毛の中の虫を探しはじめました。すると、夫は気持ちよくなって、いびきをかきながら眠ってしまいました。

「ゲヴヘトゥ、ゲヴヘトゥ...」と、族長の娘は小さな声で呼びました。

「え?ゲヴヘトゥだって?いったい、どこのゲヴヘトゥだい?」突然、悪霊は目を覚まして聞きました。でも、すぐにいびきをかいて、また眠ってしまいました。すると、頭の赤い髪はすっかり逆立ってしまいました。

「ゲヴヘトゥ、出てきて。今度はぐっすり眠ったようだわ。髪の毛が逆立ったもの。この赤毛が夫の力の源で夫の命なの。だから、髪を切り落とせば、死んでしまうわ。」

ゲヴヘトゥは、包丁を取ってきて悪霊の髪を切り落としました。すると、悪霊はすぐに死んでしまいました。そして、ゲヴヘトゥと族長の娘は、ゲヴヘトゥが降りてきた道をたどって箱があるところへ急いでもどりました。箱の中に入ると、ゲヴヘトゥは急いで鐘を三回鳴らしました。兵士たちは、その鐘の音を聞いて、箱を引き上げ始めました。地下の明かりが遠くになって消えて、真っ暗になってしまいました。でも、今度は地上の明かりが見えました。ゲヴヘトゥは、族長の娘を地面の上に降ろしました。自分も地上に上がろうとしたとき、ひとりの兵士が縄を切ってしまったのです。その兵士は、族長の娘を妻にしたかったのです。ゲヴヘトゥは、まっさかさまに、また深い穴の下へ落ちていってしまいました。ゲヴヘトゥは、穴の底に落ちたとき、ひどく体を打って、気を失ってしまいました。それから、どのぐらいの時間が過ぎたのか、誰もわかりませんが、ゲヴヘトゥは、気がつくと悪霊の家のほうへ這って行きました。力が出なくて、家の中に入ってすぐにぐっすり眠ってしまいました。そして、ゲヴヘトゥは、夢を見ました。夢の中で、珍しい扉の向こうに白い水の入った器と赤い水の入った器があるのを見ました。ゲヴヘトゥは、目が覚めると、悪霊の家の中でその容器を探し回りました。すると、夢で見た器があったのです。ゲヴヘトゥは、白い水の中に手を入れてみました。すると、死ぬほど気分が悪くなりました。でも、赤い水に手を入れると、すぐに治りました。それだけでなく、前より美男子になったようです。

ゲヴヘトゥは悪霊の家を出て、地下の世界からの出口を探しに行きました。そのとき突然、ゲヴヘトゥはどこかで子供が泣いているのを聞きました。辺りを見まわしましたが、誰もいません。頭を上げると、木の梢で小さい子供が泣いていました。その子は、服を梢の枝に引っかけてしまって降りられないのです。ゲヴヘトゥは、助けようと木によじ登っていきました。でも、そのとき、強い風がふいて、子供が木から落ちて気を失ってしまいました。ゲヴヘトゥは、子供を抱き上げてすぐに悪霊の家に向かって走り出しました。珍しい扉の向こうに器がふたつありました。そして、子供を赤い水で洗ってやりました。子供は気をとりもどして、健康で美しい子になりました。

「ゲヴヘトゥ、ありがとう。ぼくは、この近くに住んでいるんだ。でも、あなたがぼくを助けてくれたことを知らないから、父さんも母さんも今ごろ泣きながらぼくを探ししているでしょう。悪霊に盗まれてしまったと思っているかもしれません。でも、ぼくが生きていることを知ったら、きっと大喜びするでしょう。だから、父さんと母さんがあなたの願いをひとつかなえてくれるでしょう。」と、子供は言いました。

子供の両親は、子供が無事だったことを知って、とても喜びました。

そして、ゲヴヘトゥにお礼を言って、何か願いはないかとゲヴヘトゥに聞きました。

「家に帰りたい。」と、ゲヴヘトゥは答えました。

そして、子供の両親はゲヴヘトゥにセヴェナという双頭のお守りをあげました。セヴェナは、ゲヴヘトゥをあっという間に地面の上に運び、村まで送ってくれました。ゲヴヘトゥは、セヴェナにお礼を言って、族長の家に行きました。そこでは結婚式の支度がはじまっていました。族長は、縄を切った兵士の嫁に娘をさせようとしていたのです。

ゲヴヘトゥは、族長に「あなたの娘を助けたのはぼくだ。娘さんはぼくの嫁にください。」と言いました。

悲しくて泣いていた族長の娘は、ゲヴヘトゥを見てとても喜びました。

「わたしを助けてくれたのはこの人です。ゲヴヘトゥです。」と、父にかけよって言いました。

族長は、本当のことを知って、ゲヴヘトゥのもとへ娘を嫁にやることにしました。そして、それから二人は、ずっと幸せに暮らしました。